プログラムPROGRAM
2014 2

ロシア・ソヴィエト映画 連続上映
第7回 アレクセイ・ゲルマン特集

2014年2月7日(金)〜9日(日)
「道中の点検」
ПРОВЕРКА НА ДОРОГАХ
(1971/97分/35mm)
レンフィルム
原作:ユーリー・ゲルマン
脚本:エドゥアルド・ヴォロダルスキー
監督:アレクセイ・ゲルマン
撮影監督:ワディム・ガウズネル
出演:ウラジーミル・ザマンスキー、ローラン・ビーコフ、アナトーリー・ソロニーツィン、オレグ・ボリソフ
父親ユーリーの小説を映画化したゲルマン初の単独監督作品。1942年の冬、ドイツ軍に占領された北西地方で戦っているパルチザン部隊のもとに、独軍に協力していたロシア人が投降してくる。裏切り者のスパイ扱いをされても男は多くを語らず、ただ行動を通して自分が卑怯者でないことを証明してゆく。ゲルマンの演出もまた寡黙で、その緊張感みなぎる画面は、この作品を見事な活劇たらしめている。〈裏切り者〉と〈英雄〉のテーマをリアルかつ曖昧に描くこの映画は、ソ連の英雄神話を深く傷つけ、15年間お蔵入りにされた。
 
 
「戦争のない20日間」
ДВАДЦАТЬ ДНЕЙ БЕЗ ВОЙНЫ
(1976年/102分/35mm)
レンフィルム
原作・脚本:コンスタンチン・シーモノフ
監督:アレクセイ・ゲルマン
撮影監督:ワレリー・フェドーソフ
出演:ユーリー・ニクーリン、リュドミーラ・グルチェンコ
シーモノフの自伝的小説を映画化した、戦争のない戦争映画。1942年から43年にかけての20日間、従軍記者ロパーチンは、休暇をもらって列車で故郷タシケントを訪れる。前線から遠く離れたここにも戦争の影は色濃い。ロパーチンが自分の手記を映画化しているスタジオを訪れ、戦争の現実を無視していると怒鳴る場面に、ゲルマンの考えるリアルな戦争映画が垣間見える。夢のような戦場のフラッシュバック、列車の窓から一瞬切り取られる幻想的風景。銃後の生活をリアルに映し出しながら、この映画には終始メランコリックな雰囲気が漂う。
 
 
「わが友イワン・ラプシン」
МОЙ ДРУГ ИВАН ЛАПШИН
(1982年/98分/35mm)
レンフィルム
原作:ユーリー・ゲルマン
脚本:エドゥアルド・ヴォロダルスキー
監督:アレクセイ・ゲルマン
撮影監督:ワレリー・フェドーソフ
出演:アンドレイ・ボルトネフ、ニーナ・ルスラーノワ、アンドレイ・ミローノフ
ペレストロイカ直前に、ゲルマンが父親の短篇小説を映画化した作品。架空の港町ウンチャンスクを舞台に、ソ連史の空白と言われる1930年代、スターリンによる粛清〈前夜〉の荒涼とした雰囲気が、なにかが壊れゆく予感とともに、ざらざらとしたモノクロ画面と不意に挿入されるカラー画面によって見事に描き出される。『戦争のない20日間』以上に物語の線は細くなり、キャメラワークの自由度は増しているが、ラストの警察による殺人鬼の逮捕シーンなど、奇妙で不条理な犯罪活劇の一面も持つ。
 
 
作品解説:井上正昭
 
主催:神戸映画資料館、アテネ・フランセ文化センター
協力:ロシア映画社
[関連企画] 2月8日(土)
連続講座:映画批評 第6回 崩壊する国家と崩壊する映画──アレクセイ・ゲルマン
講師:井上 正昭(翻訳・映画雑文)

 

《料金》入れ替え制
1本あたり
一般1200円 学生・シニア1000円
神戸プラネットシネマ倶楽部会員1000円 学生・シニア会員900円
アテネ・フランセ文化センター会員1000円

《割引》
当日に限り2本目、あるいは講座参加者は200円引き


アンコール上映
木村卓司監督作『時』
2月22日(土)・23日(日)18:20〜

21世紀の異端映画作家・木村卓司。
2013年3月の特集「転形期のインディペンデント映画 第2回 マイナー映画の方へ」の一本として上映した『時』を再上映します。
 
「時」(2012/サイレント/60分/DVD)監督:木村卓司
一瞬一瞬、見えないはずの時が猛々しく発露し姿を現す。それは霧の様に実体のない幻想で意識下の深遠に降りて行く。日だまりの様にこの上なく心地のよいものだ。──木村卓司
『シネマトグラフ オブ エンパイア』(2009)、元町映画館が出来るまでを描いた『街に・映画館を・造る』(2011)で知られる木村卓司。その最新作『時』は、闇と光を往還する独自の世界である。
作品に寄せられたコメント

作者の「気持ちはよくわかる」という反応は、決して誉め言葉ではない。ただ、「気持ちはよくわかる」という反応が積極的な意味を持つケースも、ごく稀に存在する。木村卓司の『時』がそれにあたる。この作品を撮った監督の「気持ち」は、とめどもなく「高貴」なものだからである。
    ──蓮實重彦(映画評論家)
 
手で覆われた女の胸。平面の画面のはずが一瞬、たゆやかな膨らみの感触を漲らせる。そんなバカなと画面を凝視する頃には、「時は後戻りするはずないだろう」と笑うかの如く画面が呆けていく。そんな一瞬と流れと集約を、戯れ事としてではなく、作り手の過剰な激しさとして画面に焼き付けていく。実は、私が見たときは画面が一度フリーズを起こしたのだが、監督の呪いにも似た念に呼応しているかのようだった。
    ──家久智宏(「劇場分子」No.33 より)
 
ふわりと風に揺れるカーテンの影の向こうに横たわる女性の絵がどうしてこんなにもなまめかしくみえるのか。世界が垣間見せてくれる美しい一瞬が切り取られてゆく……。
    ──伊藤久美子(シネルフレ ライター)
 
過去への痛いほどのあこがれと欲望を満たしてくれるのは映画だけ。うまれたての映画が持っていたあの卑俗さと野蛮と高貴と可笑しさが、無声映画『時』には満ち満ちてる。
    ──いいをじゅんこ(クラシック喜劇研究家、ライター)
 
映画の中で、男は女(女体?)を渇望しているように見えました。石像や写真、絵画の女に対して男は倒錯した欲望をぶつけています。『さらばズゴック』では感じられなかった人間的なモチーフが『時』には感じられたのです。それも、極めて激しい形で。
人間のいない世界をひたすら追求した『さらばズゴック』から、人間のいる世界(女のいる世界?)を作り手は求め始めている。
    ──井土紀州(映画監督)
 
いやまあなんとも前衛的な……。ビデオカメラのレンズ性能を確認する実証実験のような……。サイレントで60分もあるのに眠くはならなかったです。ともかく一度観てもらうしかないと思います。
    ──太田耕耘キ(ぴんくりんく編集部)
 
『ラ・ジュテ』は静止画の連続の中に動画がワンカット入っていたが、今から考えると映画的に素朴である。がしかし、本作は静止している映像が、映画表現の命そのものである編集という躍動を得た幸福に満ちている。編集点が次から次へと圧倒的な間隔/感覚で放たれる時、そこに観客は別次元のゆらぎを得るのである。人はそれを時間と呼ぶのであろう。まさしく映画が司れるもの、時である。私は確かにこのスクリーンで映画の時間が醸造される瞬間を見た。
    ──金子光亮(「劇場分子」No.33 より)
 
木村卓司の映画は孤独だ。滅び行くものの大いなる黄昏の僻地に立っている。滅び行くものの絶壁のしかし明確にある、縁(エッヂ)に立っている。いま数多くの映画が生まれ上映を終えていくが木村卓司の『時』はいま立たされている絶壁の縁(エッヂ)が幻などではなくくっきりそこに存在することを知らしめてくれる時間である。
    ──木村文洋(映画監督)
 
触手のようなキャメラが平面像の女体をまさぐる。すると静止していたはずの被写体が一瞬息を吹き返したように動き出す。この瞬間に戦慄を覚える。この個人映画作家が自宅の納屋から発見されたという戦前のポルノグラフィーに眼差しを向けると、そこに津山三十三人殺しが実験映画と交差する時空が出現する。そして我々は思い出す。映画は3D技術など使わなくとも初めから立体映像だったのだと。
    ──葛生賢(映画批評家、映画作家)
 
普通、人が「時」を感じているものを接写で破壊している映画だと思いました。
    ──高橋洋(映画監督)
 
木村卓司さんは膨大な量の映画を観る。ふつうそれだけ観る人の撮る映画は自分の好きな映画を再現─更新する方向に向かうと思うが木村さんはそうはしない。『時』は膨大な数の触覚性に満ちたカットをつるべ打ちし観る者に眩暈を強いる映画だ。リビドーに満ちてつるべ打ちされる膨大なカットは一つ一つが木村さんの射精だ。なんと絶倫な人だろうか。自分が撮れる映画を撮る。木村さんは映画ファンだけではなく映画作家だったのだ。
    ──常本琢招(映画監督)
 
物質の肌理(きめ)がいずれ時間の肌理を浮き立たせる。それは禁欲とは無縁の激しい欲望の結実した姿でもある。日本の同時代でそのように感じることは少ないが、嗚呼自分もこのように撮ることができたなら、と思わずにはいられなかった。
    ──濱口竜介(映画監督)
 
60分のサイレントの自主映画と聞けば、はっきりいって悪い予感しかしない。だが、勧められて渋々『時』を見た私にもいくつかのことは断言できる。この作家が、無声映画を「音を差し引かれた映画」だとはまったく考えていないということ。長くキャメラを回していれば「時」が映るなどというおめでたい発想とはまるで無縁だということ。そして、映画館の暗闇でみんなして息を凝らしてスクリーンを見つめつづけるという経験を絶対に必要としている映画だということ。最後に、これがもっとも肝腎なことだが、めっちゃエロいです。
    ──藤井仁子(映画評論家)

《料金》
一般1200円 学生・シニア1000円
会員1000円 学生会員・シニア会員900円


NYインディーズの良質な才能 ハル・ハートリー監督、待望の4作品公開!
 
2014年2月14日(金)〜18日(火)
『アンビリーバブル・トゥルース』『シンプルメン』
2014年2月21日(金)〜25日(火)
『はなしかわって』『愛・アマチュア』
 
最新作『はなしかわって』(2011)の日本初公開ほか、劇場初公開の長編デビュー作『アンビリーバブル・トゥルース』(1989)、カンヌ国際映画祭出品作『シンプルメン』(1992)、東京国際映画祭ヤングシネマ・シルバー賞受賞作『愛・アマチュア』(1994)の4作品を連続公開
 
 
劇場初公開
「アンビリーバブル・トゥルース」
The Unbelievable Truth
(アメリカ/1989/97分/ブルーレイ上映)
監督・脚本・編集:ハル・ハートリー
撮影:マイケル・スピラー
音楽:ジム・コールマン
出演:エイドリアン・シェリー、ロバート・ジョン・バーク、クリストファー・クック
 
ニューヨーク州の平凡な住宅地、リンデンハーストに”ジョシュ”(ロバート・バーク)が戻ってきた。彼は恋人の父親を殺し刑務所に服役していたのだ。町の人々は「大量殺人者」の噂でもちきりだが、腕をかわれたジョシュは町の車整備工場で働き口を得る。工場経営者ヴィクの娘オードリー(エイドリアン・シェリー)はミステリアスな雰囲気のジョシュに夢中になってしまう。オードリーは「この世は明日にでも核戦争や環境破壊で滅んでしまう」と信じている。しかし満たされぬ恋をしたオードリーは次第に変わっていく。
オードリー役のエイドリアン・シェリーのキュートかつ複雑な感情を表現する演技力にまず驚かされる。その才能はNY大学で演技や脚本についての講義をしたり、みずからも監督作『ウェイトレス〜おいしい人生のつくりかた』でも発揮されたが、惜しくも2006年、NYの自宅で殺人事件に巻き込まれ亡くなった。まさに”信じられない事実”である。
 
 
「シンプルメン」Simple Men
(アメリカ/1992/106分/ブルーレイ上映)
監督・脚本:ハル・ハートリー
製作:ハル・ハートリー、テッド・ホープ
撮影:マイケル・スピラー
美術:ダニエル・オウレット
音楽:ネッド・ライフル
編集:スティーブ・ハミルトン
出演:ロバート・バーク、ウィリアム・セイジ、カレン・サイラス、エリナ・レーヴェンソン、マーティン・ドノヴァン、ジョン・マッケイ
 
兄のビル(ロバート・バーク)は泥棒家業をしているが恋人に裏切られ逃亡の身、弟のデニス(ウィリアム・セイジ)は大学生だが内気な性格。2人の父親はかつて伝説的な野球選手だった。しかしその父はなぜかテロリストとして刑務所に収監中という。面会に行くが既に父は脱走。ロングアイランドの何処かの電話番号と”TARA/タラ”というキーワードのみの乏しい手がかりを頼りに、父親探しの旅がはじまった。小さな町で出会ったケイトとエリナ(エリナ・レーヴェンソン)は兄弟同様、人生に対するいらだち、愛への渇望、疾走と停滞の中で新しい希望を模索する女性達だった。クールで思慮深い”シンプルメン”を気取るビルもいつしかケイトに恋心を抱く。デニスは不思議な存在感を漂わせる可愛いエリナに心惹かれる。そんなとき、謎多き父親の影が見え隠れしてきた。
エリナ役、ルーマニア出身のエキゾチックな魅力が印象的なエリナ・レーヴェンソンは1991年にNYでハル・ハートリーの短編作に出演したことを機に、ハルの作品には欠かせない存在となった。兄弟の旅、エディプス・コンプレックス、様々な問題を抱えた男女、アンビバレントな愛の寓話を結びつける説得力を持つ女優だ。
 
 
日本初公開 
「はなしかわって」Meanwhile
(アメリカ/2011/59分/ブルーレイ上映)
監督・脚本・製作・音楽 :ハル・ハートリー
編集:カイル・ギルマン
出演:D・J・メンデル、ダニエル・マイヤー、二階堂美穂
 
マンハッタンに暮らすジョセフ・フルトン(D.J.メンデル)は、ジャズ・ドラマーが本来の仕事ではあるが、多くの友人や器用な性格で様々なプロジェクトに手を染めている。エコ窓の輸入、小説を書いたり、広告用ビデオを制作したり、はたまたちょっとした修理はいつも携えているブリーフケースの工具でたちまち直してしまうといった具合。恋愛事情も目まぐるしく、今日も彼は都会の片隅の人間模様に巻き込まれたり巻き込んだり。彼にとっての成功とは、社会に認められることだが、大きな成功はなかなか手が届かない。しかし、彼の持つ優しさは、様々な人との一瞬のふれ合いを繰り返中で、微妙に人間と人間の距離を縮めていくのだった。
オフ・ブロードウェイで確かな演技力を培った主演俳優D.J.メンデルの存在感、ニューヨークの街と人々の情景、”話の接ぎ穂”を彩る音楽、美しく豊かな人間の希望を描き出している。
 
 
「愛・アマチュア」Amateur
(アメリカ/1992/106分/ブルーレイ上映)
監督・脚本:ハル・ハートリー
製作:テッド・ホープ、ハル・ハートリー
撮影:マイケル・スピラー
音楽:ジェフ・テイラー、ネッド・ライフル
編集:ティーブ・ハミルトン
出演:イザベル・ユペール、マーティン・ドノヴァン、エリナ・レーヴェンソン、ダミアン・ヤング、チャック・モンゴメリー、デヴィッド・シモンズ
 
ニューヨークの裏通りで男(マーティン・ドノヴァン)が倒れている。ソフィア(エリナ・レーヴェンソン)は死んだと思われる男の様子を見るとその場から逃げた。しかしその男、トーマスは記憶喪失でカフェで出会ったイザベル(イザベル・ユペール)に助けられる。イザベルは尼僧として神に仕えていたが現在は売れないポルノ小説作家をしている。イザベルはトーマスに興味を持ち、自分のアパートで世話をする事に。イザベルは性に対してのコンプレックスをトーマスに打ち明け2人の間には愛情とも友情ともつかない不思議な関係が出来上がっていく。一方ソフィアはひどい仕打ちを受けたトーマスを殺したと思い込んでいた。実はトーマスは国際的な犯罪組織の一員で秘密を握っており、追っ手は今やソフィアを狙っていた。
フランスを代表する大女優、イザベル・ユペールが主演女優を務め、『シンプルメン』に続いてエリナ・レーヴェンソン、またハル作品の常連俳優達が脇を固めることによって演出も冴え、非常に完成度の高い作品となった。ハル作品の根底に流れるキリスト教的な原罪と贖罪の関係性が、社会と個人の愛の対称性にいかなる矛盾と影響を与えるか。作家性と娯楽性が調和した傑作だ。
 
予告編
公式サイト
 

《料金》入れ替え制
一般1800円 学生1200円 シニア1000円
会員1500円
 
前売
4回券4000円
※ 4回セット券をお買い求めの方はオリジナルポストカードをプレゼント(数量限定)


これまでのプログラム|神戸映画資料館

※内容は予告無く変更する場合があります。

※作品によっては、経年退化で色褪せしている場合がございます。予めご理解ご了承の上、ご鑑賞くださいますようお願い申し上げます。